鍼灸治療は我が国において長い歴史と伝統をもち、その技術水準のきわめて高いことは広く知られているところです。一方、その臨床効果に関するエビデンスについては、まだ十分な科学的検証が行われているとはいえません。
しかし、世界的なエビデンスに基づく医療(EBM)の流れは鍼灸医療の分野にも波及してきており、近年、欧米を中心として鍼の臨床研究は急激にその数が増えるとともに、その質も飛躍的に向上しています。
本書は、2006年秋に京都で開催された、(社)全日本鍼灸学会主催の国際シンポジウム「エビデンスに基づく鍼灸治療の現状」における発表論文を分かりやすく紹介したものです。そのオリジナル論文はインターネットを通じて自由に閲覧することができますが、本書は、単なる欧文学術雑誌の翻訳版ではなく、その内容の理解を深めるための序章が矢野忠会長によって加筆され、専門用語に関するサイドメモならびに索引が加えられています。
その内容は現時点における変形性膝関節症に対する鍼治療のエビデンスの集大成といえるものです。そこには、鍼の臨床における有効性や安全性の他に、医療経済学的な側面や基礎医学的な機序も言及されています。そして、鍼はきわめて有用かつ安全な治療法であるとの結論がしっかりとしたエビデンスに基づいて導かれています。
社団法人東洋療法学校協会では、本書は各養成施設での教育に欠くことができない良書として、ここに推薦するものであります。
東洋療法を学ぶ学生諸氏が、本書を活用して最新の鍼の臨床研究の現状を理解されることを願ってやみません。
平成19年8月
社団法人東洋療法学校協会
会 長 谷口 和久